みなさん、こんにちは。伊藤駿です。これを書いているのはフランスでの同時多発テロの次の日のエジンバラ空港です。やはり近国ということもあって警戒態勢が引かれているように思いますが、それほど大きな混乱もなく作業できています。予定ではこれが最後のコラムになりますね。最後は海外の教育格差是正に向けた政策の紹介です。紹介するのはイギリスによる「シュアスタート(sure start)」プログラムです。
本プログラムは、1997年に政権交代に成功した労働党政権が、1998年より10年計画で5億£(当時は1£=150円程度→750億円)もの予算をつぎ込み行ったものです。詳しい方はアメリカのヘッドスタートなどを思い浮かべるかと思いますが、このシュアスタートもそのヘッドスタートを参考に行われたものです。
シュアスタートは当初特定の地域(貧困地域)の0〜4歳児とその家族の健康とウェル・ビーイングの増進を目的に行われました(埋橋, 2009)。その後その効果が上がり、2003年より全国的に拡大していきます。その活動の中心は各地にあるSure Start Children’s Centreで最終的には3500ものCentreが動いています。
その特徴はやはり0歳児から4歳児という人生の初期段階へのアプローチ、未来への投資にあるでしょう。また家族ぐるみでサポートをかけることでより効果的な結果を得ているように感じます。日本では、無償のサポートがないわけではないですが、その大半が有償であり、持ちうる経済資本によって受けられるサービスが変わるという、就学前からの格差が生まれるサービスになっています。
私自身もそうですが、小学校に入る段階である程度のひらがなの読み書きはできました。ところが、このことは家庭での教育が難しい家庭にとっては決して当たり前ではないでしょう。このプログラムはそういった問題にアプローチをかけて、子どもたちの学校への移行をスムーズにすることに成功しています。以前にも書いたような気がしますが、どれだけの学校での「当たり前」を子どもが持っているかということは、学力だけでなく学校生活へ大きな影響を与えることは想像に難しくありません。
ただし注意しなければならないのは、イギリスが正しく日本が間違っているという二項対立的に考えても仕方がないということです。これまでのコラムもそうですが、どこかで「うまくいった」ことが他のところで「うまくいく」保障はどこにもありません。その国、その地域のもつ地域性や文化に大きく左右されることは間違いないでしょう。ただ、うまくいった事例からうまくいった要因を探り、それを参考に組み立てていくことは大きな意味を持つと筆者は考えています。
コラムはこれでおしまいです(番外編書くかもしれませんが)。これまでのコラムでも大切なことを大量に捨象し、どれだけわかりやすくするかということに重きを置いてきました。疑問や反論もあるでしょうから、そういったことはお気軽にお問い合わせください。また、興味を持ったという方は参考文献を読んだりフォーラムに参加したりして知見を深めていただければと思います。知ることは大切なことです。
しかし、課題を知っただけでなく、その後どのような行動を取れるかがより大切です。障害児教育の先駆者の糸賀一雄は「自覚者は責任者である」という言葉を残しました。このコラム、フォーラムを通してみなさんがただ自覚者としてではなく、その課題を解決する責任者として行動していけるような働きかけができたら筆者冥利に尽きます。短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました。
伊藤 駿
参考文献
埋橋玲子 2009 「イギリスのシュア・スタート –貧困の連鎖を断ち切るための未来への投資・地域プログラムから子どもセンターへ-」『四天王寺大学紀要』 第48号, pp.377-388
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フォーラム概要
■テーマ:「教育格差」
■開催日時:2015年11月22日(日) 14:00~16:30(途中入退場可)
■場所:京都大学吉田キャンパス法経本館第七教室
■入場料:無料
■主催:NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)
■登壇者:隂山英男氏(立命館大学教育開発推進機構教授・立命館小学校校長顧問・
NPO法人日本教育再興連盟代表理事)
若槻健氏(関西大学文学部准教授)
■特別ゲスト:西矢大亮先生(茨木市立郡山小学校)
■後援:京都府教育委員会
京都市教育委員会
文部科学省
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